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2015.01.16

わたしの、仕事に対する取り組み方の基調になっているのは、「コンセプト&フォルム」という言葉なのではないかと最近思う。

コンセプトは心のこと、フォルムは身体のことだ。混沌の海の中から生まれでた小さな思いにかたちを吹き込むのが、わたしの仕事なのではないかと思う。どちらが欠けても、それを美しい仕事なのだとは、きっとわたしは思えない。

戦略立案から実行、という言葉でいうならその両方を見ていたいと思うのはそういう理由で、現場に下りすぎだという批判があるのは承知の上だが、しかし現場の最後の調整でフォルムの仕上げをしていく過程にこそ、息を吹き込むべきではないかとも思っている。贅沢でわがままなリソースの無駄づかい、といわれればそれまでだけれど。

ところで、"concept and form"というのはオリベッティが1971年に東京プリンス前庭で行った展覧会の題名でもある。東京プリンス前庭で行った、と言うと語弊があるかもしれない。当初、ルーブル美術館付属装飾美術館の招聘で開催され、感動と賞賛と驚きをもって迎えられた展覧会が、日本オリベッティ創立10周年を記念して東京でも開かれたのだ。もちろんわたしはこの展示会をリアルには知らない。それでも、当時最先端の技術と製品と志を持ったオリベッティという会社のことは、往年のそれを知る人たちから熱意と感動を持って語られてきたし、彼らの作品である工業製品に関わってきたデザイナーの顔ぶれを見ても、おそらく、当時飛びぬけて美しいものづくりを実現してきていた会社だということは分かる。1911年に、「機械は質実で、しかも優美でなければならない」と宣言した会社。ベッリーニ、エットレ・ソットサス、ジョバンニ・ピントーリ、フォロンにベン・シャーン。芸術と実用の幸せな融合。
そして、というべきか、だから、というべきか、日本オリベッティは、あの須賀敦子を見出した会社でもあるのだ。須賀敦子が随筆家としてデビューしたのは彼らの広報誌『SPAZIO』だった。美しく実直で、そして、文章から立ちのぼるフォルム。

美しい時代は去り、もやはオリベッティと名のつく会社は日本にはなく、須賀敦子も今はいない。それでも、わたしのなかにまだその息吹が消えないのは、まさに彼らが残した、コンセプトとフォルムの故だと思う。
そうか、わたしは、時代を超える何かを残したい、と、ただそれだけを希っているのか。