« August 2024 | トップページ | October 2024 »
2024.09.14
向日葵みたいな
中学1年生の終わり、というともう30年以上前の話だけれど、アルミ加工の工場を経営していた父の仕事が少し大きくなり、工場を拡張することになって、生まれ育った町から千葉のある街に転校した。得意なこともなく、引っ込み思案でコミュニケーション下手だったわたしは学校に馴染むのに時間がかかり、毎晩、前の学校の幼馴染に電話をしては泣いていた。昔から、新しい環境に馴染むのに時間がかかる性格なのだ。
中2にあがり、当時のわたしの人生を救ってくれたのが、Tちゃんだった。Tちゃんのお家は昔から地元で商店をやっていて、おしゃべりで明るくて可愛くて、勉強もできて、向日葵みたいな子だった。
中学3年で今度はイギリスの学校に転校することになっても、Tちゃんは毎週のように手紙をくれた。当時はメールなんてなく、だからわたしはTちゃんのことを思い出すと、Tちゃんの几帳面な字を同時に思い出す。手紙のやり取りは、高校を卒業して日本に帰ってきてからも続き、わたしは、会わなくても強く長く続く友情があるのだと言うことを、実感としてよく知っている。
そんなTちゃんと久しぶりにランチ。少なくとも10年くらいは経っているけれど、会った瞬間から話が止まらなくて、たっぷり2時間おしゃべり(でもまだ話し足りないくらい)。霧のかかったような昔と、ここ最近で話が行ったり来たりして、2人で壮大な織物を一緒に織っているようだった。また会おうね、すぐにね、と誓い合って席を立ち、「そうだTちゃん、来週お誕生日だね」とふと言ったら、彼女は目を丸くしたあと少し涙ぐんで「なにそれ、なんで覚えてるの、嬉しくなっちゃうじゃん」と、ハンカチで顔を拭った。多分ね、家族と一緒でね、わたしはあなたの誕生日を一生覚えてるよ、と思ったけれど言わなかった。そして、そんな彼女の屈託のなさに、あの頃のわたしは、心から救われていたんだ。